転職活動に成功し、いよいよ退職の時期が近づいてくると、会社からさまざまな手続きを依頼されることも多いです。その中で、誓約書へのサインを求められることもあるでしょう。なんとなく、「企業から提示されたものは、無条件でサインをしなければならない」と思い込んでいないでしょうか?
「内容を読んでみると、どうもこちらにとって不利に感じる」「不当な申し出のように感じる」といった場合に、誓約書を拒否することができるのかどうか、気になるポイントをこの記事でご紹介します。何も知らずに損をすることがないよう、ぜひ参考にしてみてください。
■自分にとって不利なものであればサインを拒否することも可能
退職時に求められる誓約書のサインですが、自分に不利だと感じるような内容であれば、サインを拒否することも可能です。不当だと感じても誓約書にサインしてしまうと法的な効力を持ってしまうこともあるため、疑問があればその場でサインせず、一旦持ち帰るようにするのがいいでしょう。
持ち帰って専門家や弁護士と相談し、自分(労働者)に不利な内容になっていないかを確認し、疑問点があれば企業側にも確認するなど、丁寧に見てからサインするかしないかを決めるよう心がけてください。
■誓約書にサインした場合のデメリット
仮に誓約書にサインをしてしまった場合、デメリットとなるのは下記のようなポイントです。
・競業避止を守る義務が発生する
競業避止といい、退職後に同業種など競合するような仕事に定められた期間、就いてはならないという規定のことです。顧客が持っていかれてしまう、ノウハウが盗まれてしまうなどの危険を防ぐために、企業側が誓約書に盛り込んでくる場合が多いです。
サインをしてしまうと、誓約書通り一定期間は同業他社に転職できないなどの制限が加わる可能性もあります。
・守秘義務を守る義務が発生する
働いている間に担当した顧客情報や、勤めていた企業の企業秘密などを退職後も外部に漏らさないという契約を守る必要が出てくる可能性もあります。
・誓約書の内容に背いた場合、損害賠償請求を受ける可能性がある
上記2つなどを含み、誓約書に書かれている内容に背くと、損害賠償請求を受ける可能性も十分にあります。誓約書に書かれる項目としては、競業避止や守秘義務などがことが多い傾向にありますが、それ以外にも自分に不利な条件が載っていないかをよく確認するようにしましょう。
わからない場合は書面を専門家に見せて意見を聞き、サインをするか拒否するかを決めてください。
■誓約書を拒否した場合のデメリット
次に、誓約書を拒否した場合のデメリットについてもご紹介します。
・退職前後の関係性が悪くなる可能性がある
誓約書を書くのは退職する直前であることも多いため、あと少しの期間と考えればそこまで問題に感じない人も多いかもしれません。しかし、これまでの会社の人との関係性が悪くなる・変な噂が立つことなどはできれば避けたいものです。特に、同業種などに転職する場合はそう感じる人が多いでしょう。
関係性が悪くならないように、条件の緩和を公序良俗(民法90条)に反していることを理由に申し出る、内容を広範なものではなく限定的に変えてもらうなどの交渉が必要になるかもしれません。いずれにしてもサインを拒否する場合には、不当性などを説明できるよう専門家に相談できる状態にしておくのが安心です。
・退職金を支払わないといわれる
サインを断った場合、企業側から「サインしないのであれば、退職金を支払わない」などの条件をつけてくる場合もあります。しかし、「サインを断ったことを理由に退職金を支給しない」ということはできません。退職金を払ってもらうためにも、その旨を指摘する必要が出てきます。こちらも単独では交渉が難しいため、専門家についてもらって対応するようにしましょう。
■退職時に誓約書を求められるケース
退職時に誓約書の内容に盛り込まれがちなポイントをまとめましたので、このような内容が含まれていないか、確認してみてください。
・残業代や退職金請求の権利を放棄する(違法)
まれに、この誓約書にサインしたら「残業代や退職金の請求権利を放棄する」という規約を入れてサインを求めてくる企業もありますが、これは完全に違法です。違法だと思わずに規約として入れてしまっている企業もあるため、書面を専門家に見せて相談し、対応するようにしましょう。
・競業避止(競業するような仕事に就くのはNG)
・守秘義務(営業秘密などを退職後も漏らさない)
競業避止や守秘義務について、長期間・広い範囲について制限を加えている場合は無効とすることができます。ただ、どの範囲を指しているのかがわからない場合などは確認して履歴を残しておくか、専門家の意見を仰ぐようにしましょう。
・顧客情報の持ち出し
顧客情報の持ち出しについては、そもそも入社するときに誓約書を書いていることが多いですから、入社時にどのような誓約書を書いているかを確認しておくべきです。また、顧客とのNDAを結んでいるものなどはその企業と結んでいる契約であるため、この誓約書に関係なく漏らしてはならない契約となりますので注意してください。
・顧客との取引の禁止
競業避止の内容に含まれている場合もありますが、取引のあった顧客をそのまま引き抜いて持っていくというような取引が禁止されるケースも多いです。どのような場合に違反となるのかなどを確認し、不利な条件でないかを確認しておく方が安心できるでしょう。
■誓約書にサインしても無効となる場合もある?
仮に誓約書にサインしてしまったとしても、後から内容が無効なる場合もあります。ただ、完全に無効になるかどうかは状況によりますので、簡単に誓約書にサインはしないようにしましょう。
・職業選択の自由を制限する内容である
短い期間の場合は有効となることもありますが、基本的に職業選択上の自由(憲法22条1項)が認められているため、長期間・広範囲なものであれば、公序良俗(民法90条)に反しているとして無効とされることがほとんどです。
ただし、退職した個人にとても影響力がある場合などは、競業避止が認められるケースもあります。役員として同業に行く場合などは競業避止が認められる場合もありますので、サインする前によく確認するようにしましょう。
・守秘義務について合理的な範囲を超えている
制限の必要性・範囲(期間、場所、職種)・在職時の地位・制限に対する代償の有無などで合理性が判断されるものとなっています。そのため、限定的なものは認められるケースが多いです。
・残業代や退職金請求の権利を放棄する内容
こちらは先程もお伝えしましたが、違法であることと、合理的な理由がない場合は無効となるケースが多いです。
無効となる可能性があったとしても誓約書に書いてある内容によって、あるいは誓約書へのサインを強制していないという事実があった場合などは自由意志で了承し、サインしたとみなされる場合もあります。必ず内容の確認をして、納得ができたものにサインをするようにしましょう。
■まとめ
退職時に会社から誓約書のサインを求められた場合、誓約書に書かれていることが多い項目やその適切な範囲などについてご紹介しました。特に法律関係に明るくない方にとっては、どう判断していいのか疑問に思うことも多いでしょう。
適切な範囲がわからなかったとしても、この記事を参考にして「自分にとって不利かもしれない」と思う場合は、まず保留にして持ち帰るという選択肢を持つようにしてください。闇雲にサインしてしまうと、後々大損害を被る可能性もあります。
入社が決まった時期は退職する会社との手続きを軽んじてしまう気持ちもあるかもしれませんが、後で困ったことにならないよう、しっかり気を引き締めて文面を確認し、納得できてからサインをするという習慣を身につけておくことが重要です。