退職するときに、獲得した顧客の名刺を会社に返さないといけないのか、皆さんはご存じでしょうか?基本的には必ず返却した方が良いです。転職先でも活用したいと考える人もいるかとは思いますが、思いがけないレベルのトラブルに発展する可能性もあります。転職先で前職に在籍中に獲得した名刺を活用することで、とんでもない金額の損害賠償を求められるケースもありますので、注意が必要です。
退職する際には多くのものを会社に返さなければなりません。
・健康保険証
・社員証
・鍵やセキュリティカード
・業務を進める上で手に入れた情報やデータ
・会社所有のパソコンや携帯電話
・制服
・名刺 など
パソコンや携帯など、会社所有のものを返却すべきなのはわかると思いますが、「え、名刺も?」「転職先でも活用したい」と考える人は少なくないのではないかと思います。今回は、「名刺を返さないといけない理由」「名刺の扱いに関するトラブルの例」をご紹介します。
■退職する際には名刺を会社に返さなければならない
自分の名刺はともかく、顧客の名刺を会社に返却しないといけないことに納得がいかない人もいるかもしれません。特に汗水たらしながら、頑張って開拓し、深耕してきたお客様なら尚更でしょう。ただ、結論から伝えると、どれだけ頑張って獲得した顧客の名刺であっても、退職時には必ず会社に返さなければなりません。その理由は「担当者ではなく会社の所有物であるから」です。
そもそも名刺交換とはなんのために行うのでしょうか?ビジネスにおける挨拶の一環であり、お互いの情報(会社・役職・グループ・立ち位置など)を交換することと、電話番号やメールアドレスなどの連絡先を交換することで人脈を拡げるために名刺交換を行います。実際に名刺交換をし、その後やり取りをするのはお互いの担当者ですが、あくまでも会社の代表としての立場になります。一個人ではなく、会社を背負っての立場であり、これから取引を始めていく、より円滑に取引を進めていくために名刺交換するため、獲得した名刺は担当者の所有物ではなく、会社のものになります。在職中ずっと管理していたとしても、あくまでも会社の代表として預かり管理していたことになります。
■退職後の名刺の取り扱いによって裁判になったケースもある
退職後に前職で獲得した名刺に関するトラブルで、裁判にまで発展した例をご紹介します。今回は損害賠償が認められたケースと認められなかったケースについてです。
<損害賠償が認められたケース>
AさんがB社で勤務しながら同業であるC社を設立しました。その後、B社を退職し、B社で獲得した名刺を使い、C社で営業活動を始めました。雇用契約上の違反行為とし、B社がAさんに損害賠償請求をしたところ、C社でび営業活動することを目的とし、B社に在籍しているときに獲得した名刺を持ち出したことは雇用契約上の義務違反に該当するものであるという結果になりました。
<損害賠償が認めらなかったケース>
退職する際に取引先の名刺を返却せずに、転職先の企業にてその名刺を利用して営業活動を行ったことで、損害を被ったとして元社員を訴えたケースがあります。前職の企業は、業務中に獲得した顧客の名刺は営業秘密にあたるものとして、元社員に損害賠償を求めたが、結果は「保管や利用などを制約する労使間での取り決めがない」という理由を元に、今回の名刺利用は営業秘密を害するものとしては認められないとの判決になりました。ただし、労使間で事前に秘密保持の契約などが交わされていたり、社内規定で定めらている場合は、損害賠償になる可能性はあります。
■退職時の名刺の取り扱いに関する注意すべき点
上記以外にも名刺の取り扱いについて注意した方が良い点がいくつかあります。
<注意点①:紙でなければOK?>
名刺と聞くと紙のものを想像すると思いますが、紙以外であればOKなのでしょうか?例えば、紙の名刺を写真にとったものや、メモ書きしたものはどうでしょうか?結論からいうと、どちらもNOです。媒体の種類は関係なく、あくまでもその情報に価値があるため、どのような手法でも個人情報にあたるものを持ち出すことは、現物の名刺を返却したとしても罰則にあたる可能性が高いので注意が必要です。
<注意点②:記憶している顧客情報を元に営業活動はOK?>
何かのもので持ち出すことがNGであることは上記の通りですが、記憶している情報を元に転職先で営業活動を行うことはどうなのでしょうか?答えはこちらもNOです。重要なことは、前職で業務を進めているときに獲得した情報である点です。どのような方法であろうとも、在籍中に手に入れた情報などは会社のものになります。
■まとめ
労使間での契約や社内規定により、退職時の名刺の取り扱い方に関して、損害賠償を認められるケースもあれば、認められないケースもあります。認められないケースであったとしても、裁判となれば気持ち的にも身体的にも大変であり、時間も工数も多くかかるため、できる限りトラブルにならないように、退職時は名刺や個人情報にあたるデータ・資料などは必ず会社に返却した方が良いでしょう。